第十話 我が工房のアクションカメラ紹介 (AKASO EK7000)
さあさあ、お立ち会い!本日我が工房にやってきた、何とも奇妙で小さな目玉のお話でございます。こいつの正体をネットの広大な海で調べてみたらば、出ました名前が「アカソの、いーけー七〇〇〇(AKASO EK7000)」という。まるで西洋の魔術か、異国の呪文のような名前の機械じゃ。
届いた箱を目の前にし、いそいそとテープを剥がして驚いたのなんの。その小ささと軽さは、ちょっとした事件やで。昔、ワシら昭和の人間が血眼になって憧れた、あの「パスポートサイズ」のビデオカメラどころの騒ぎやない。おいおい、これ、ピンポン玉を四角くしただけやんか。狐につままれたような気分でキッチンスケールに乗せてみたら、本体だけならわずか五九グラム。手のひらに乗せても重さをこれっぽっちも感じんから、首にかけとるのをすっかり忘れて、「あれ? どこ置いた?」「お父さん、首にあるわよ」と家族に呆れられる始末じゃ。お値段も一万円ちょっと(一万五百円前後)というんじゃから、二度びっくり。昔のバカ高いビデオカメラの何十分の一の値段や。まったく、とんでもなくええ時代になったもんじゃのう。
さあ、いよいよこいつを引っ提げて、加古川のほとりへ出陣じゃ。
このカメラの何が面白いかって、装着の仕方がまさに「七変化」することや。箱を開けると、底の方からいろんな形の黒い金具(マウントパーツ)が、これでもかと湧き出てくる。首にかけたり、帽子につけたり、自転車のハンドルに括り付けたり。どれにしようかと頭をひねったが、ワシは首からぶら下げて、釣りの手元をリアルに映すことにしたんじゃ。
いざ現場で撮影をしてみると、その画質には本当に腰を抜かした。「四K(よんけー)」とかいう、もの凄く目の良い機能がついとるらしく、テレビで見るより実物に近いんやないかと思うほど色が鮮やかでくっきりしとう。加古川の水面が朝日に照らされてキラキラと黄金色に輝く様子も、川底にへばりつく苔の瑞々しい緑も、レンズが「一七〇度」という驚くほど広い視野(超広角レンズ)を持っとるおかげで、ワシの目に映る景色を丸ごと切り取ったみたいに見えるんじゃ。
思えば、ワシらが若かった頃の「記録」いうたら、すべてが汗だくの「重労働」やった。写真を一枚撮るにも、ずっしり重い四角い一眼レフを構え、フィルムの残数を「あと何枚か」と気にしながら、現像所の仕上がりを何日も待った。ビデオとなればさらに大ごとで、肩に担ぐようなバカでかい機械に、弁当箱みたいな四角いテープ(VHS)をガシャコンと入れて、腕をプルプルと震わせながら撮ったもんじゃ。あの頃は「記録を残す」という行為そのものに、男の気合と一苦労が必要やった。
それが今や、どうじゃ。ピンポン玉みたいな目玉を首にポイとぶら下げとくだけで、ワシの目線そのままの景色を、こいつが勝手に記憶してくれる。科学の進歩というやつは、ワシらの生きてきた昭和の常識を、新幹線並みの猛スピードで追い抜いていきよる。
ただのう、あまりに便利で優秀な相棒じゃが、ちょっとボヤきたくなる「得手不得手」や、使う人間のマヌケさによる試練もある。
鼻息荒く出陣した初日、ターゲットは淀みに潜む大きな「ナマズ」じゃった。川の主のような風格のやつを狙ってルアーを投げ込む。すると、ググッと手応えがあり、竿が満月のようにしなり、リールがジジジッと悲鳴を上げる!必死に足元の泥にまみれ、息を荒くしながら、見事に大物ナマズを釣り上げた。「よし、最高のドラマが撮れたぞ!世界に見せてやりたいわい」と意気揚々と我が家へ引き揚げ、パソコンに繋いで中身を確認したら……。
画面は真っ暗。静寂の闇。何も入っとらん。
……そう、肝心の「スイッチ」が入っとらんかったんじゃ!
このカメラ、ボタンを「ポチッ」と押して、ピピッという小さな電子音を確認せなアカンかったんや。ナマズに向かって「ようし、引くねえ!」と語りかけ、必死に格闘しとったワシの一人芝居のような姿は、世界のどこにも残っとらん。ただ加古川の風に消えただけ。ショックで膝の力が抜け、疲れがドッと出たわい。便利すぎる道具は、油断した人間に「しっかりせえよ」と手厳しい試練を与えよる。
それにのう、後からネットで調べてみたら、この小さな機械には「Wi-Fi」という目に見えん電波の糸がついとるらしい。スマホの画面と繋げば、離れたところからでも操作ができるんやと。オマケに手元でカチッと押せる「ワイヤレスリモコン」まで最初から箱に入っとる。「これがあれば、最初から手元でスイッチが入っとるか一発で分かったやんか!」と、説明書を後から虫眼鏡で読んで頭を抱えたわ。悲しいかな、老眼のワシには、あの爪の先ほどの液晶画面や、スマホの中の英語みたいな設定文字を読み解くのがちと辛くてのう。ついつい「習うより慣れろ」と、力任せに現場へ行ってしまうのが玉に瑕(きず)やな。
それと、このカメラは外側の透明な「防水ケース」をカチッとはめると、なんと水深四十メートルまで潜っても大丈夫(四十m防水性能)という、恐ろしいほどのタフさを持っとる。川にうっかり落としてもへっちゃらなのは、釣り人としてこれ以上ない安心感や。が、しかし、ケースにガッチリ守られると、今度はワシの自慢のダミ声(音声)が小さくこもってまうという、ちょっと不器用なところもある。まあ、人間も機械も、完璧いうわけにはいかんのが、また愛嬌があってええけどな。
失敗も含めて新しい挑戦。あのナマズの勇姿は、今回はワシの心のメモリーにだけ鮮明に保存して、次は絶対に「ポチッ」と押すのを忘れんようにするわ。
自分の手で苦労して残す思い出も尊いが、こうして新しい技術を首にぶら下げて、加古川の自然を丸ごと記録するのも、これまた乙なもんじゃ。
よし、次は絶対にスイッチを入れて、あの淀みに潜む大物ナマズのリベンジマッチを撮り落としにいくかのう。カメラはバッチリ映してくれても、魚が釣れるかどうかはワシの腕次第。こればかりは、どんなに賢いアクションカメラでも自動で魚を引き寄せてはくれんからのう。
明日もボチボチ、新しい形を記録しにいこうかのう。
