養生草紙 第三十三巻:天井の点と、静まり返った明け方

いやはや、参った。  今日は少しばかり、ワシが身を置いとうこの「病院」という場所の空気について、記しておこうと思うんじゃ。ここには個室もあれば、ワシがおるような四人部屋もある。ナースセンターのすぐ横には、ひときわ体調の優れん方が入るための特別な個室も用意されとるんじゃよ。

 一回目の入院の時は、四人部屋で過ごしたんじゃがな。「四人もおれば、少しくらいは世間話の花も咲くじゃろう」と高をくくっとったワシが甘かった。そこには会話なんてありゃあせん。たまに家族が見舞いに来ても、聞こえてくるのは堪えきれん啜り泣きや、地を這うようなボソボソとした低い声ばかりじゃ。

 中にはな、病のストレスに心が悲鳴を上げて、急に泣き出すもんや、誰彼構わず怒鳴り散らすもん、医師と激しい喧嘩を始めるもんもおる。かと思えば、ただひたすらに天井の一点を見つめ続けとう御仁もおる。普通の病院とはまるで違う、この重苦しい独特の空気に、ワシもなかなか慣れることができんかった。

 忘れもしん、ワシがひどい船酔いにのたうち回っとった時のことじゃ。  夜中の静寂を切り裂くように、ナースセンターの周りが急にバタバタと騒がしくなったんじゃ。ふと見れば、酸素ボンベをつけた一人の老人が、ベッドに乗せられたまま、あのナースセンター横の部屋へと運ばれていった。

 暗闇の中、壁越しに看護師さんや医師の緊迫した声がかすかに漏れ聞こえてくる。ワシはただ、船酔いと戦いながら、その声に耳を澄ませとったんじゃが……。

 明け方、あんなに聞こえとった声が、ふっ、と途絶えたんじゃ

窓の外が白み始める頃、廊下はまた元の静けさに戻っとった。けれど、その静けさは昨日までとはどこか違う、もっと深くて冷たいもんのように感じてな。

ここでの闘病は、単に体との戦いだけやない。こういう「生と死」が隣り合わせにおる空気の中で、いかに自分の心を守っていくか。それが一番の難題かもしれんのう。    ま、考えても答えは出ん。ワシにできるんは、今日もボチボチと、与えられた一日を精一杯生きることだけじゃ。  皆も、当たり前の朝が来ることを、どうか大切にしてな。

拙い話にお付き合いくださり、感謝の極みじゃ。
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