第四話 変わってしもうたもん、変わらん気持ち

翌日、

昨日のバックラッシュだらけの一日を思い返しながら、ふらりと釣具屋へ向かった。

釣り場へ行く前に、ちょっと様子でも知っとこう。そんな、軽い気持ちじゃった。

店に入ると、ロッドやリールがきっちり並び、相変わらず圧倒される。昨日は勢いで一式そろえたが、今日は、落ち着いて眺める余裕があった。

棚の前で立ち止まっとると、声をかけてきたのは、昨日対応してくれた若い店員じゃった。

バックラッシュの話をすると、苦笑いしながら頷いてくれる。そこから自然と話が弾み、最近の釣り事情の話になった。

それを聞いて、正直、胸の奥がざわついた。

まず一つ。

釣り人のマナーが悪うなって、釣り禁止の場所が、えらく増えとるらしい。ゴミの放置、無断駐車、騒音、立ち入り禁止への侵入。

一部の行いのせいで、長年釣りができとった場所が、次々と閉ざされとるという。昔は当たり前に立てた野池も川沿いも、

今じゃ看板だらけじゃそうな。

もう一つ。

自然そのものが変わってしもうて、魚がほんに少のうなっとる、という話じゃ。水質の変化、護岸工事、外来種の問題。

バス釣りを取り巻く環境は、昔とは、まるで別の世界になっとった。

話を聞きながら、昨日の釣り場の光景が浮かんだ。あそこには、他の釣り人は一人もおらんかった。

静かで、落ち着いて、ええ場所やと思っとった。だが、あれは「人気がない」んやなくて、「釣る人が、いなくなった場所」じゃったのかもしれんな。

店を出たあと、気がつくと、昨日の釣り場へ車を向けとった。

確かめたかったんじゃろう。着いて、辺りを見渡す。やはり、人はおらん。風は吹き、水は揺れとるのに、人の気配だけがない。

そのとき、視界の端に、見慣れんものが入った。――釣り禁止。錆びかけた看板が、黙って、そこに立っとった。

胸の奥が、すうっと冷えた。昨日は気づかんかった。夢中じゃったのか、見んふりをしとったのか、自分でも分からん。しばらく、その場に立ち尽くす。

ロッドを取り出す気にはなれんかった。道具は、静かに車へ戻した。「……そういうことか」誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。

家に帰り、パソコンを開く。今度は、ネットで釣り場の情報を集め始めた。地図、ブログ、SNS、掲示板。

昔なら考えられんほどの情報が、画面いっぱいに並ぶ。釣りに不便な時代になったが、探すことに関しては、ほんに便利になった。

釣れる場所、釣れん場所、禁止されとる場所、マナーの注意。ええ話も、厳しい現実も、一気に目に飛び込んでくる。

ページをめくるたび、何度も突きつけられる。「……昔とは違うな」それでもな、気持ちは折れんかった。

むしろ、はっきりした。もう、昔のようにはできん。じゃが、釣りが終わったわけでもない。今の環境を知り、守り、工夫して向き合う。

それが、これからの釣りなんじゃろう。画面を閉じ、立てかけたロッドを眺める。昨日感じた、あの胸の奥の熱は、まだ消えとらん。

変わってしもうたもんは多い。場所も、魚も、時代も。それでもな、「釣りをしたい」その気持ちだけは、確かに残っとる。

――さて、次は、どこで竿を振ろうか。そう考え始めた自分に、少しだけ、ほっとした。

釣りは不便になった。じゃが、まだ終わっとらん。