養生草紙 第二十八巻:青い皿、痺れる指先と心の中で叫ぶ「今」
いやはや、参った。 嵐というもんは、一難去ってまた一難、次から次へと波が押し寄せてくるもんらしい。
昼間の「船酔い」のような気分の悪さにじっと耐え、ようやく夕飯の配膳が回ってきた時のことじゃ。目の前に置かれたのは、なんとも涼やかな青い皿。そこに盛り付けられた食事を手に取ろうとしたその瞬間、さらなる異変がワシを襲ったんじゃ。
手先が、痺れる。 指の先からジワジワと、得体の知れない感覚が広がっていく。箸を握ろうとしても、自分の手やないような、なんとも頼りない痺れが指先を支配しとるんじゃ。「船酔い」に加えて「痺れ」のダブルパンチ……これにはさすがのワシも、いささか音を上げてしもうた。
たまらずナースコールを押して状況を伝えると、看護師さんはにこやかにこう言うたんじゃ。 「自由爺さん、これも抗がん剤の副作用なんですよ。でもね、十年前の薬に比べたら、これでもだいぶん改善された方なんですから」
……。 「違うねん、看護師さん。ワシが大変なのは、十年前やなくて『今』なんや。もしこれが十年前の薬やったら、ワシはもう、とっくにひっくり返っとるわ」
そんな言葉が喉まで出かかったが、忙しそうに立ち働く彼女を前に、心の中でそっとつぶやくだけに留めておいた。医療がいくら進歩したと言うても、今この瞬間の苦しみは、本人にしか分からんもんやからな。
青い皿の食事も、なんとかかんとか胃に収めた。 今はただ、この痺れる手足と騒がしい胃袋をなだめながら、一刻も早く眠りにつきたい。 「明日になれば、きっと治っとるよね」……そんな希望を胸の隅っこに抱いて、今夜は早めに布団をかぶることにするわ。
病(やまい)との付き合いは、ホンマに忍耐の連続じゃ。 ま、明日は明日の風が吹く。今夜はこれでおしまい。 皆も、体が発する小さなサインを逃さんと、ボチボチ養生しなはれや。
