養生草紙 第二十九巻:腹の中のダンスと、藁をも掴む爺の叫び
いやはや、参った。 「寝て起きたら、魔法みたいに治っとる」……そんな淡い期待を抱いて目を閉じたんじゃが、現実はそう甘うなかったのう。
今朝、目が覚めて真っ先に確認したんじゃが、体調は昨日から何も変わっとらん。それどころか、朝食に出されたパンの香りを嗅いだ瞬間、胃袋が「今は勘弁してくれ」と悲鳴を上げたんじゃ。 今のワシの腹の中は、まさに戦場。昨日の晩飯と抗がん剤が、入り乱れて激しいダンスを踊り狂っとるような感覚じゃ。胸の奥からせり上がるムカムカに、箸を伸ばす気力も湧いてこん。
さらには、手先と足先じゃ。 指先から足の裏にかけて、まるで無数の小さな虫がザワザワと這いずり回っとるような、奇妙で不快な痺れが止まらん。こうも「不調の波」が次から次へと押し寄せてくると、さすがのワシも、ポキッと心が折れそうになる……。正直、気持ちが弱くなってくるのを感じておったんじゃ。
そんな折、回診にきたお医者様が「いかがですか?」と声をかけてくれた。 ワシはもう、藁をも掴むような、いや、仏様を拝むような必死の思いで、今の苦しい状態を洗いざらい伝えて助けを求めたんじゃ。 すると先生は「強い吐き気止めを出しましょうね」と言ってくれたんじゃが、その後に続いた言葉がまた……。 「十年前の薬に比べたら、これでもだいぶん改善されとるんですよ。食事は頑張って摂ってくださいね。あと、水をたくさん飲んでください」
……。 「先生、そないな強い薬があるんなら、なんで昨日の晩に回してくれんかったんや!」 情けないことに、半泣きになりながら心の中でそう絶叫してしもうたわ。医療の進歩の歴史を聞かされても、今この瞬間の「虫が這う感覚」や「腹のダンス」が消えるわけやないんやからな。
ま、叫んだところで薬が早く効くわけでもなし。 今は出してもらった「強いやつ」を信じて、指示通り水をチビチビ飲みながら、嵐が過ぎ去るのを待つしかないのう。 養生というのは、進んでは下がり、耐えては祈る……その繰り返しなんかもしれん。 今日は一日、借りてきた猫のように大人しくして、少しでも体が楽になるのを待つとしますわ。 皆も、無理が効かん時は無理をせんこと。ボチボチ、いくのが一番じゃよ。
