養生草紙 第三十二巻:眩しき同僚と、瞼の重みに灯る感謝
いやはや、参った。 二度目の抗がん剤という「儀式」を終えて、ようやくあの荒波のような船酔いからは解放されたんじゃが、今度は別の波が押し寄せてきとう。体の隅々で、また新しい変化が起きとるようじゃ。
手足の痺れは相変わらず居座り続けとうし、何より味覚障害がひどくなってきおった。昨日驚いたコーヒーだけやなく、何を食べても味が定まらんのは、食いしん坊のワシにはちと堪えるのう。それに加えて、最近は瞼(まぶた)が異常に重いんじゃ。時折、後ろから髪をぐいっと引っ張られているような感覚になって、ふっと意識が遠のくことがある。目が重たいもんじゃから、大好きな本を読むことも、スマホの画面を眺めることもままならん。ただじっと、光を避けるようにして横になっとる時間が増えたわい。
そんな折、今日は会社の同僚たちがわざわざ見舞いに来てくれたんじゃ。 久しぶりに見る顔ぶれに嬉しくなってな。「みんな、元気しとったか?」と声をかけたんじゃが、間髪入れずに「その言葉、まるまるお返ししますよ!」と、まるで漫才の掛け合いのような返事が返ってきたわ。
一頻(ひとしき)り笑い合うたんじゃが、ふとみんなの姿を眺めると、外の世界でバリバリと働いとう彼らは、なんとも生き生きとして眩しかった。翻ってワシを見れば、ジャージ姿に丸坊主。病室という限られた空間におる自分と彼らを比べて、わかっちゃおるんじゃが、どこか世間から「置いてけぼり」にされたような、一抹の寂しさが胸をかすめたんじゃ。
けれどな、彼らが置いていってくれたプレゼントを見て、その寂しさもどこかへ飛んでいってしもうた。 もらったのは、横向き用の枕とニット帽。 今のワシが「これがあったら楽やなぁ」「坊主頭が恥ずかしいなぁ」と思うていたところを、まるで見透かしたような贈り物じゃった。言葉にせずともワシのことを案じてくれとったんやなぁと思うと、ありがたくて、感謝、感謝の気持ちでいっぱいになったわい。
体は重く、目は塞ぎがちじゃが、心にはポッと温かい灯がともった一日じゃった。 置いてけぼりなんかやない。ワシを待ってくれとる場所がある。そう思えるだけで、この痺れも瞼の重みも、なんとかやり過ごせる気がするんじゃ。 さて、今夜はいただいた枕を試しながら、早めに休むとしようかの。 焦らんと、ボチボチ。明日には少しでも、この目が軽うなっとることを願って。 皆も、身近な人の優しさに、そっと甘えられる夜でありますように。
