養生草紙 第十九巻:水責めと暇の地獄、夜空への強がり
いやはや、長い。とにかく長い、ながーい点滴じゃった。
六時間もの間、じっと管につながれとるのは人生で初めての経験じゃ。幸い、今のところは痛みも気持ち悪さもありゃせんが、この「暇を持て余す」というんも、なかなかどうして一種の地獄やな。天井のシミを数えるのも、テレビを眺めるのも、三時間もすれば飽きてしもう。
さらに難儀なのが、看護師さんからの「点滴中にも水を一リットル飲んでくださいね」という指導じゃ。入院してからというもの、一日一リットルの水を飲むように言われとるんやが、これがまた曲者でな。普段は何気なく飲んどる水も、義務になって意識して飲み続けると、不思議なことに喉が焼けたようにヒリヒリと痛み出すんじゃ。
点滴の「暇持て余し地獄」と、水の「喉ヒリヒリ地獄」。四十八の男が二つの地獄を同時に味わうことになるとは、人生、一筋縄ではいかんもんやな。播州の祭りで神輿を担ぐ方が、よっぽど楽かもしれんわい。
ようやく点滴が終わり、腕の注射針を外してもらった瞬間、解放感からか、足が勝手に屋上の公園へと向いとった。 ひんやりとした夜風にあたりながら、さっきまで自分を縛りつけとった点滴スタンドを思い出す。そして、ぽっかりと浮かんだ夜空に向かって、ポツリと独り言を吐いてやったんじゃ。
「なんや、全然たいしたことないわ」
……まあ、ちょっとした強がりじゃ。本当は不安で、喉も痛うて、クタクタなんやけどな。けれどものう、こうして虚勢でもええから言葉に出してみると、本当に「たいしたことない」ような気がしてくるから不思議なもんや。
初陣は、ひとまず無事に終わった。 明日からも、水責めやら何やら続くじゃろうが、この夜空に吐いた言葉を嘘にせんよう、ボチボチと耐えていくとするわ。
皆も、しんどい時は「たいしたことないわい!」と空に笑い飛ばしてみなされ。心が少しだけ、軽くなるかもしれんぞ。
さて、今夜は水を忘れて、ぐっすり眠ることにしますかな。
