養生草紙 第十三巻:出端をくじかれた朝、心の癖とインスリン
いやはや、入院二日目の朝。気合を入れ直して「いざ、抗がん剤との戦いじゃ!」と身構えとったんじゃが、どうにも世の中、思うようにはいかんもんやな。
医師からの説明では、当初の予定どおりにはいかんとのこと。なんでもワシの血糖値が高止まりしとるらしく、まずはインスリンでそれを下げんことには、肝心の治療がスタートできんと言うんじゃ。
正直、肩透かしを食らった気分でな。出先をくじかれるとは、まさにこのことじゃ。 「よし、やるぞ」と張り詰めとった糸が、ふっと緩んでしもうて、そこからなんとなく嫌な想像がむくむくと膨らんでくるんじゃ。これから何をするにしても、いちいちケチがつくんやないか……。そんな不吉な考えが、頭から離れんのじゃ。
おかしいのう。ワシはどちらかと言えば楽観的な性格で、「なんとかなるわ」が口癖やったはずなんに。 宣告を受けてからというもの、どうも悪い方、悪い方へと考えてしまう「心の癖」がついてしまったようじゃ。外科手術ができんだけでも堪えとるのに、抗がん剤治療にすら、まだ辿り着けん。
「ワシ、本当に戦わせてもらえるんやろうか」
たった二日目で、こんなに心が萎えてしまうとは情けない。 けれどものう、これもきっと、身体が「まずは落ち着け」とブレーキをかけとるんかもしれんな。
ま、焦っても血糖値は下がらんし、病気が逃げてくれるわけでもない。 今はインスリンの力を借りて、一歩ずつ地固めをする時期なんじゃろう。
空回りしとる自分を「しゃあないなぁ」と笑えるようになるまで、もう少しかかりそうじゃが、明日はまた別の風が吹く。 皆も、物事が思うように進まんとイライラする夜は、深く呼吸をして、まずは自分の身体を労わってやりなされ。
さて、今夜は余計なことは考えず、早めに目を閉じるとするわ。ボチボチ、な。
