第五話 川は、答えを急がせんかった

釣り場のことを調べ続けとるうちに、ひとつ、当たり前やけど見落としとった事実に行き当たった。

家の近くに、一級河川が流れとる、ということじゃ。しかもな、年会費を払えば、決められたルールの中で釣りができるらしい。

池や野池みたいに、看板にビクビクする必要もない。場所ごとのグレーに、神経をすり減らさんでええ。

「ここは、釣りをしてええ場所や」そう胸を張って立てる場所がある。それだけで、なんだか少し、肩の力が抜けた。

何が釣れるかは分からん。バスがおるかどうかも、正直あやしい。それでも、行ってみようと思った。

釣りはな、分からんから面白い。昔から、そうじゃった。川に立つと、池とは、まるで勝手が違う。

水は流れ、深さは一定やない。足元が急に落ちとるところもあれば、ゆるやかに広がる瀬もある。

どこに魚がおるのか、さっぱり見当がつかん。池ならな、なんとなくの「ここやろ」があった。岸際、カバー、影。

じゃが川では、その感覚が通用せん。流れの強さ、水の色、底の形。全部が、動いとる。

「……なるほど、これは別の釣りやな」そう思いながらも、嫌な感じはせんかった。分からん、という感覚が、むしろ新鮮じゃった。

ポイントは分からん。教科書もない。頼れるのは、手探りと、勘だけじゃ。まずは流れの緩いところに立って、キャストする。

流れに乗せて引き、手元の感触を確かめる。……反応なし。少し場所を変え、今度は流れ同士がぶつかるあたり。

それでも、答えは返ってこん。

そのとき、ふと、昔から使っとったルアーを思い出した。スピナー。今じゃ、あまり話題にもならん。

派手なルアーと比べりゃ、確かに地味じゃ。自分でも、化石みたいな選択やと思った。

それでもな、なぜか投げたくなった。理由はない。ただ、そうしたかっただけじゃ。キャストして、流れに乗せ、ゆっくり巻く。

ブレードが回り、かすかな震えが、ロッドに伝わる。

その瞬間じゃった。……コン。小さなアタリ。

反射的に合わせると、ロッドが曲がり、魚が走った。

「……おるやん」思わず、心の中で叫んどった。

慎重に寄せ、ネットに収めた魚は、ニゴイじゃった。

人気者でもない。狙って釣る魚でもない。それでもな、その一匹は、やけに輝いとった。川で、初めて、自分の手で釣り上げた魚。

ポイントも分からんまま、手探りで辿り着いた答え。それが、ちゃんと形になって、そこにおった。

スピナーを眺めながら、自然と笑ってしもうた。「……まだ、いけるな」年齢のせいでもない。ブランクのせいでもない。

釣れるかどうかは、ちゃんと向き合ったかどうか。そんなことを、あの一匹が教えてくれた気がした。

最新の道具やなくてもええ。流行りの釣り方やなくてもええ。自分が信じて投げたもんに、魚は、ちゃんと応えてくれる。

川はな、池みたいに分かりやすうはない。じゃが、そのぶん、答えは深い。

釣り場を探すことは、自分の居場所を探すことに、どこか似とる。簡単には見つからん。遠回りもする。それでも、

一歩ずつ進めばちゃんと反応は返ってくる。ニゴイを返し、しばらく川を眺めとった。

流れは変わらず、淡々と続いとる。「……また来よう」そう思えたことが、何より嬉しかった。

釣りは、まだ終わっとらん。むしろ、ここからが始まりなんかもしれんな。