養生草紙 第十八巻:腕を伝う冷たい覚悟、抗がん剤の進軍
いやはや、ついにこの時が来てしもうた。 朝飯をしっかり平らげ、いつもの検査をパパッと済ませた後、いよいよ初めての抗がん剤投与に向けて、先生と看護師さんから詳しい説明があったんじゃ。
点滴で六時間もかけてじっくり体に入れ込んでいくこと、尿の回数や量を細かく量ること、そして気分が悪うなったら遠慮せんと呼ぶこと……。先生は「最近は薬も進化しとるから、昔みたいにひどい吐き気が出ることは少ななっとりますよ」と安心させるように言うてくれた。その言葉を信じたいが、やはり初めてのこととなると、喉の奥がキュッとなるような緊張感はどうしても拭えんわい。
諸注意が終わると、いよいよ腕に管が通された。 そこを伝って、薬が体内へ流れ込んでくる……。なんとも言えん冷たい感覚が腕に伝わってきたとき、「ああ、始まったんやな」と改めて腹を括ったんじゃ。
入院してから、インターネットで自分なりに抗がん剤についていろいろ調べてみたんやが、結局のところ、こいつは癌細胞だけやなく、ワシを助けてくれとる良い細胞まで一緒くたに攻撃しよるらしいな。敵を討つためとはいえ、自分の身体の中で大いくさが始まるようなもんや。
「いやはや、どうなることやら」
まさに緊張感マックス。四十八の坊主頭の親父が、点滴スタンドの横でじっと動かずに座っとる姿は、はたから見れば滑稽かもしれん。けれど、ワシの心の中は、これから始まる「内なる戦い」への期待と不安で、嵐の前の静けさのような心地じゃ。
ま、考えてもしゃあない。薬がしっかり働いてくれるのを信じて、この六時間をじっと耐え抜くしかないわな。 今日は屋上の風を思い出しながら、身体の力を抜いて、薬に身を委ねてみることにするわ。
皆も、未知のことに挑む時は、まずは「冷たい感覚」をしっかり受け止めることから始めてみなされ。 さて、第一陣の進軍、見守るとしますか。ボチボチな。
