隠居の湯治 ラフォーレ伊東温泉 湯の庭
伊東のやさしい湯に出会うまで
若い頃はのう、温泉といえば「効能ガツン!」「成分濃厚!」というやつが一番ありがたいと思うておったわい。色や匂いが強烈で、鼻をつく硫黄の香りが部屋まで漂ってくるような山奥の秘湯を巡っては、「これぞ温泉じゃ」と悦に浸っておったもんよ。じゃが、年を重ねるにつれて人の好みなんぞ変わるもんじゃな。最近は強い刺激で体を驚かせる湯よりも、肌にそっと寄り添い、体にやさしく、長~く浸かれる湯が一番心地よいと感じるようになった。
そんな今のワシの心と体に、あつらえたようにぴたりと馴染んだのが、伊豆の老舗湯処にある「ラフォーレ伊東温泉 湯の庭」じゃった。
車を降りると、どこか懐かしい昭和の温泉街の匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。きらびやかで落ち着かない大型リゾートとは一線を画した、凛とした和の佇まいを目にしただけで、日常のせわしない時計の針が少し緩むような、心地よい予感に包まれたわい。
主張しない湯の、奥深い実力
ここの湯は、いわゆる単純温泉。湯船を覗き込んでも、色も匂いもこれといった自己主張をしてこんのじゃ。例えるなら、引き算の美学とでも言おうか、余計な出汁を取りすぎておらん極上の「白湯(さゆ)」のような湯じゃな。
正直に白状すれば、最初は「ちと物足りんかのう」なんぞと不埒なことを思ったが、これが大違いじゃった。
湯船に体を沈め、肩までどっぷりと浸かってしばらくすると、大地のぬくもりが皮膚を通して体の芯からじわ~っと温まりよる。熱すぎず温すぎず、絶妙な湯加減でな。強い温泉に入ったときのような、湯上がりにドッとくる疲れやだるさが一切残らんのじゃ。これには温泉うるさがたのワシも恐れ入った。「これなら毎日でも、朝に夕にでも入れるわい」そう素直に思わせる、まさに酸いも甘いも噛み分けた大人向けの、実にまっとうな湯じゃな。
庭園を巡るような、粋な湯巡り
大浴場は広々としておって、手足を思いっきり伸ばして湯船を独り占めしても、誰にも気兼ねがいらんのがありがたい。
そっと外の露天に出れば、伊東のやわらかく温暖な空気が、湯上がりの火照った肌に優しく触れる。目をみはるような派手な絶景が目の前に広がっているわけじゃないが、その分、視界を邪魔する余計なものが一切なくて実におだやかに落ち着くんじゃよ。湯に浸かりながら、頭を空っぽにして何も考えん時間をただぼんやりと過ごす。昭和の長屋で夕涼みをしているような、そんなおだやかな時間こそが、現代人にとって実は一番の贅沢なんかもしれんのう。
さらに面白かったのは、足湯や貸切風呂も含めた、館内全体に広がる“湯めぐり”の感覚があることじゃ。
ただ一つの湯船に浸かって終わりではなく、美しく手入れされた中庭をのんびり散歩するように、気分を変えていろんな湯をハシゴして楽しむ。まるで昔ながらの鄙びた湯治場を、現代の暮らしに合わせて今風に粋に整えたような造りになっておる。どこへ行くにも気負いがないのが実によい。これならワシらのような隠居はもちろん、家族連れや仲睦まじい夫婦で訪れても、それぞれのペースで使い勝手が良いじゃろうな。
客室露天という、気ままな贅沢
それに、この宿の嬉しいところは、客室にプライベートな温泉が付いた部屋もしっかりと用意されている点じゃ。
宿の他のお客の目を一切気にせず、自分の好きな時にいつでも好きなだけ極上の湯を堪能できるちゅうのは、ワシら年配者には実にありがたいもてなしじゃな。異国のからくり(スマホ)の通知を切り、夜中にふと目が覚めて、月明かりのなかでもう一度ひとっ風呂浴びる。あるいは朝、鳥のさえずりを聞きながら朝もやの中で朝風呂を贅沢に愉しむ。そんな我が儘で気ままな真似ができる宿は、世間広しといえどもそう多くはないからのう。
今回、この地を旅して特に気に入ったのが、伊東温泉に古くから伝わる「健身湯(けんしんゆ)」という温かい考え方じゃ。
大病を患ってから慌てて病を治すというよりは、日頃から温泉の力を借りて心と体を健やかに整え、日々を穏やかに過ごすための湯。この宿全体が、建物の造りからも、もてなしの距離感からも、その古き良き想いを大切に守っているように肌で感じたわい。
やさしさに包まれる、大人の隠れ家
ここは、目を引くような派手な装飾があるわけでも、成金染みたきらびやかさがある温泉宿でもない。じゃが、一泊二日の滞落を終えて荷物をまとめ、玄関を出て帰る頃には、心の中にぽっと灯りがともったように「あぁ、また来てもええな」と自然と思わせる不思議な魅力がある。
それはきっと、注がれる湯がどこまでもやわらかくやさしく、そして迎えてくれる宿の人々の心もまた、人にやさしいからじゃろう。
流行りの飾りに惑わされず、こういう本物の養生を教えてくれる宿こそ、次の世代にも長く残ってほしいと、自由爺は心から願うのじゃよ。湯上がりのしっとりとした肌を撫でながら、またこのやさしい湯に会いに来ようと、心の中で静かに誓った湯旅でござんした。皆さんも日々の小忙しさに少しばかりお疲れなら、伊東の風に吹かれに、ふらりと出かけてみてはいかがかな?
ここにあるお話(養生草紙)は、すべてワシ個人の体験談やレビューや。お薬や治療の代わりになるもんやないからね。
体の調子がすぐれない時は、無理せんと専門のお医者さんの診断を仰ぐのが一番の養生や。自分の体を一番に大切にしてな。
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