隠居の湯治 城崎温泉 御所の湯

城崎温泉の外湯巡り

大谿川(おおたにがわ)のさらさらというせせらぎを聞きながら、太鼓橋のたもとを歩く。浴衣の裾をなびかせ、カランコロンと心地よい下駄の音を夕暮れの温泉街に響かせるのは、城崎ならではの最高の贅沢じゃな。軒先に灯るガス灯のような優しい光を見つめていると、なんだか昭和の活動写真のひとコマに迷い込んだような、どこか懐かしい郷愁に包まれる。そんな城崎温泉の外湯巡りをしておると、自然と足が向く特別な湯があるんじゃ。

それが「御所の湯」じゃな。

温泉街の中心近くに位置し、風格ある佇まいで旅人を迎えてくれる。数ある外湯の中でも、ここへ向かうときは不思議と歩幅が変わり、名前からしてどこか背筋が伸びる思いがするわい。「御所」なんぞと聞けば、ワシら庶民が日頃お世話になっている街角の風呂とは、明らかに一線を画す高貴な響きがあるからのう。

由来と歴史の重み

その由来を紐解いて知れば、なるほどと深く合点がいく。

今を遡る鎌倉時代、後堀河天皇の御姉である安嘉門院がこの湯に入られたという、由緒正しき言い伝えが今に遺されておってな。そこから畏れ多くも「御所の湯」と呼ばれるようになったそうじゃ。城崎の七つの外湯はどこもそれぞれに固有の味と良さがあるが、ここは単に汗を流す場所というだけでなく、数百年の時を刻んできた歴史という名の“重み”を、その暖簾の向こうにどっしりと背負っておるんじゃな。

建物と光の調律

歴史があるとはいえ、決して古臭くて薄暗い場所ではないのが、この湯の面白いところじゃ。

建物に近づくと、京都の御所を思わせる木組みのどっしりとしたお見事な構えに圧倒されるが、一歩中に入ると、その印象は良い意味で裏切られ、意外なほど明るく開放的な空間が広がっておるんじゃよ。見上げれば、大きなガラス屋根から自然の柔らかな光がこれでもかと差し込んでおる。

そこに浴槽から立ち上る真っ白な湯気がふわりと舞いよる景色は、なんとも幻想的で美しい。例えるなら、伝統を重んじる昔ながらの日本家屋に、さりげなく現代の知恵と粋な遊び心を足したような絶妙な調律じゃな。

庭園露天風呂の贅沢

さあ、手ぬぐいを片手に、いよいよ湯船へと向かおう。

浴場の奥に広がる、山裾を上手に活かした庭園露天風呂がまた実によい。岩肌を伝ってさらさらと流れ落ちる滝の音を聞きながら、湯船に身を深く沈めれば、目に入るのは瑞々しい緑と、無骨な石、そして遮るもののない広い空だけじゃ。

今どきのレジャー施設のような目がチカチカする派手な演出はどこにもないが、だからこそ、余計な雑音を忘れて心底落ち着くことができる。ここは携帯電話を気にするような場所じゃなく、もちろん写真を撮る場所でもない。何も考えず、ただ黙って湯に浸かり、自然と一体になるための静かな場所じゃよ。

やわらかな湯の癒やし

注がれる湯は、城崎らしいどこまでもやわらかくて優しい泉質じゃ。

肌に触れた瞬間にピリピリとした刺激が少なく、まるで上質な絹のベールで身体を包み込むような心地よい感触。例えるなら、長旅や日々の小忙しさでカチコチにこわばった体を、ひとつひとつ丁寧にほぐしてくれる熟練の職人の手のようなもんじゃな。

湯船の中で腕をさすっておれば、身体の奥の奥からじんわりと疲れが抜けていくのが本当によくわかるわい。外湯巡りの途中でここへ立ち寄れば、石畳を歩き疲れた足腰が、まるで嘘のようにシャキッと生き返るぞ。湯上がりには肌がしっとりとして、風が心地よく火照った身体を吹き抜けていく。

町の誇りを感じる一湯

ワシにとって、この御所の湯は、城崎の外湯巡りという長い旅路の中でも、大切な「節目」になる湯じゃと思う。

お湯の素晴らしさと空間の気品に満たされ、浴衣の襟を正して外へ出るとき、「さあ、身体も軽くなったことだし、もう一軒別の湯へ行くか」と、前向きに気持ちを優しく整えてくれる力がある。

城崎温泉という歴史ある町が守り続けてきた格、受け継がれてきた豊かな歴史、そして地元の人々の誇りを、この一湯でまとめて全身に感じさせてくれる存在じゃな。ただ体を温めるだけではない、温泉旅の真髄がここには確かに息づいておる。皆衆も城崎の町を訪れたなら、ぜひこの極上の湯に身を委ね、心まで解きほぐされてみてはいかがかな?

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御所の湯 | 豊岡市観光公式サイト

城崎温泉街の7つの外湯の一つ。南北朝時代の歴史物語「増鏡」に文永四年(1267年)に後堀河天皇の御姉安嘉門院が入湯されたことから「御所の湯」と名付けられました。城崎…