隠居の湯治 ラフォーレ修善寺 山紫水明

ラフォーレ修善寺 山紫水明

伊豆の国は中ほど、修善寺の深い森へとさらに一歩分け入ると、不思議なことに、都会でせかせかと回っていた時の流れの歯車が、ふっと緩む気がいたしやす。窓を開ければ、草の匂いを含んだ冷涼な川風が吹き込んできて、それだけで旅情が嫌増してそそられやすな。「ラフォーレ修善寺 山紫水明(さんしすいめい)」てぇ宿は、まさにそんな日常を忘れさせてくれる、浮世離れした感覚を味あわせてくれる大人の隠れ家でござんした。

玄関をくぐると、そこはもう俗世の喧騒とは完全に切り離された別世界。

それにしても、ここの敷地は呆れるほどに広い。山を丸ごと一つ抱え込んだような広大さでしてね、寝床(客室)から飯処や大きなお大師様の湯屋(スパセンター)へ行くには、屋敷内を定期的に走る「乗り合い馬車(シャトルバス)」を呼び出して使わなきゃならねぇ。最初は「こいつはちと面倒だ」と面食らいやしたが、いざ乗り込んでみれば、これがまた「はるばる旅に来たなぁ」という旅情を優しく誘う。緑のトンネルを抜けて森の中をトコトコと走る様子は、現代の車というより、どこか小さな駕籠(かご)にでも揺られているような、不思議なのんびりとした心地よさでさぁ。

全室温泉露天風呂付きの贅沢

さて、この山紫水明の一番の自慢であり、旅人を一番に喜ばせてくれるのは、全室に自分だけの「温泉露天風呂」が付いていることでござんす。

部屋の鍵を開けて奥へと進み、ウッドデッキの縁側へ出れば、そこには目の前に豊かな緑の森がドーンと広がっておる。蛇口をひねって湯を張り、湯気が心地よく立ち上ったところを見計らって、ザブンと独り占めの湯浴みを洒落込む。……いやはや、こいつが実にたまらねぇ。

湧き出る湯は、修善寺の歴史ある名湯らしい、どこまでも柔らかくて優しい泉質でさぁ。肌に触れた瞬間にツルンと馴染むが、決してまとわりつくような嫌味がねぇ。例えるなら、長い年月をかけて角の取れた、丸い川石に腰掛けているようなおだやかな安らぎでさぁね。湯の刺激が少ないもんだから、長湯をしても不思議とちっとも疲れず、湯上がりは体の芯の芯までポカポカと温まりやす。わしのような爺のくたびれた足腰や神経にも、じわじわと効いてくるのがわかりやすぜ。

大浴場「森の湯」への湯巡り

今回は、部屋の湯だけで満足するのも野暮ってぇもんだと、ちょいと足を伸ばして、敷地内にある共同の大浴場「森の湯(もりのゆ)」へも行ってみやした。

また例の乗り合い馬車にガタゴトと揺られ、お天道様の光が木々の隙間からこぼれ落ちる森の小道をのんびり歩くと、木組みの風情ある湯処が現れやす。内湯も露天風呂も、手足を思いっきり伸ばせるほど広々としていて、湯船に浸かってふと見上げる空の、なんと高いこと!

部屋のプライベートな湯とは違い、こっちの大浴場は「修善寺の豊かな自然を丸ごと五感で頂く」ってぇ寸法だ。サワサワと優しい風が木々を揺らす葉擦れの音や、野鳥の愛らしいさえずりを耳にしながら湯に浸かっていれば、いつしかあっしも、この大きな森の一部になっちまったような心地よい錯覚を覚えやす。

己と向き合う湯、自然に溶け込む湯

部屋の露天が、誰にも邪魔されずに自分の心と静かに語り合う「己(おのれ)と向き合う湯」なら、こちらの森の湯は、雄大な大自然の懐にどっぷりと抱かれる「自然に溶け込む湯」。その表情の異なる二つの名湯を、自分の気が向いた時にいつでも好きなだけハシゴして味わえるなんざ、わしらのような隠居にはちと過ぎた贅沢でしょうな。心も体もすっかり軽くなり、日頃の暮らしで溜まった澱のようなものが、真っ白な湯気の中に綺麗さっぱり消えていきやす。

夕食に伊豆の山海の幸を美味しくいただいた後は、夜の帳が下りた頃、また性懲りもなく部屋の露天風呂へ。

夜の湯治は、昼間とはまたガラリと風情が変わりやす。暗闇の中に漂う湯気の向こう、月明かりにうっすらと浮かぶ森の黒い影と、どこか遠くの草むらから聞こえてくる秋の虫の声。昭和の長屋にあふれていた絵草紙(テレビ)の賑やかな音も、異国からやってきた忙しないからくり(スマホ)の通知音も、この静寂の中じゃあ野暮なだけ。ただぼんやりとお湯に浸かり、自然の音に耳を澄ます。そんな、現代人が忘れがちな俗世を忘れるおだやかな時が、ここには確かにありやす。

静かなる湯治場

ここは、今どきの大型レジャー施設のような、目がチカチカするような派手な湯じゃござんせん。

だがね、目の前に広がる豊かな森と、身体を芯から労る優しい湯、そしてすべてを包み込んでくれる深い静寂(しじま)。それさえ揃っていりゃあ、自由爺にはもう、十分すぎるほどのご馳走でさぁ。携帯電話の電源を切り、時計を外し、ただ「何もしない」という最高に贅沢な時間を過ごしに行く湯治場。それこそが、ここ「ラフォーレ修善寺 山紫水明」の本当の価値でござんした。皆さんも日々の暮らしに少しばかりお疲れなら、伊豆の爽やかな風に吹かれに、ふらりと出かけてみてはどうでえ?

【ワシからのお願い(免責事項)】
ここにあるお話(養生草紙)は、すべてワシ個人の体験談やレビューや。お薬や治療の代わりになるもんやないからね。
体の調子がすぐれない時は、無理せんと専門のお医者さんの診断を仰ぐのが一番の養生や。自分の体を一番に大切にしてな。
万が一、掲載した情報でトラブルが起きても、当サイトでは責任を負いかねるんじゃ。すまんねぇ。
詳しいお約束事は、こちらの「プライバシーポリシー・免責事項」にまとめてあるで、一読しておくれやす。