養生草紙 第十二巻:白い天井、止まった時計と屋上の風

いやはや、入院初日の午後というのは、どうしてこうも時間が進まんもんじゃろうな。

お昼時までは検査やら説明やらでバタバタしとったんじゃが、それが終わると急に「手持ち無沙汰」という怪物に襲われた気分じゃ。病室は四人部屋。十七時に面会時間が終わって夕食を済ませると、もうやるべきことが何一つありゃせん。

昨日まではあんなに忙しゅう働いとったのに、いきなり小さなテレビを眺めるだけの生活。そんなもんで時間が持つわけもないわな。時計の針が止まったんやないかと、何度も見返してしもうた。

二十時を回った頃、たまらず屋上の公園へ夜風に当たりに行ったんじゃ。  そこには、ワシと同じようなことを考えとる人が十人ほどおってな。ベンチにじっと座っとる人、薄暗い中で本を読んどる人、星を仰いどる人、黙々と歩いとる人……。皆それぞれじゃが、不思議なほど会話が聞こえてこん。ただ、耳に入るのは「ひゅう」という風の音だけ。それぞれが、自分の中にある「病」という闇と静かに向き合っとるようで見とるのが切なかったわい。

二十二時の消灯になれば、あとはもう横になって、ただただ白い壁と白い天井を見つめるしかない。

闇の中で天井を凝視しとると、昨日までの当たり前の生活が、もう何十年も前の、遠い遠い過去の出来事のように思えてくるんじゃ。四十八歳の働き盛りが、いきなりこの真っ白な世界に閉じ込められてしもうた。  「死ぬ??」という問いが、また天井の白さに混じって浮かんでは消え、消えては浮かびよる。

ま、初日の夜はこんなもんじゃろう。  この白い天井に慣れるんが、ワシの新しい「日常」の始まりなんやな。

今はまだ、風の音しか聞こえん孤独な夜じゃが、明日はまた明日の風が吹く。  焦らんと、ボチボチ身体を馴染ませていくしかないわな。

皆も、天井を見つめて悩む夜があったら、そっと風の音を思い出してみてな。  さて、明日はどんな一日になりますかな。

拙い話にお付き合いくださり、感謝の極みじゃ。
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