養生草紙 第二十三巻:普通という名の贅沢、再戦への刺身一切れ
いやはや、十日間の自宅療養というのは、瞬きする間もなく過ぎ去ってしもうた。
病院の小さなテレビやなくて、家の大きな画面で映画を堪能し、お気に入りの音楽をスピーカーから流す。村上春樹の本をゆっくり読み返したり、大きなパソコンで趣味のことを調べたりな 。公園を散歩して、たまーに外食を愉しむ……。何てことない「普通」の日常なんじゃが、それがこれほどまでに心に沁みるとは思わなんだ 。今まで四十八年生きてきて、こんな感覚は初めてじゃよ。「普通」って、実はとてつもなく凄くて、ありがたいことやったんやな。
そんな夢のような時間も今夜が最後。 前回の入院前は焼肉を腹一杯詰め込んだが、今回は趣向を変えて、あっさりと刺身にしたんじゃ 。一切れ、また一切れと口に運び、その旨みを静かに味わう。前のように「食べまくる」んやなくて、命を頂くように丁寧にな。
その一切れを噛みしめながら、頭の中では明日から始まる「第二の戦い」を思い描いとった 。 一度は「死ぬ??」とまで怯えたワシじゃが、家の空気を吸うて、少しばかり魂の洗濯ができた気がするわい。
ま、焦っても、気負いすぎてもしゃあない。 明日からはまたあの白い天井と向き合うことになるが、この十日間の「普通の幸せ」を胸に秘めて、ボチボチと戦ってくるとするわ。
皆も、今そこにある「普通の一日」を、どうぞ大切に味わってな。 さて、荷造りをして、またあの場所へ戻りますかな。
次はまた、病院の窓際からお会いしましょう。
