細工物小屋 第五話 空中散歩 赤影気分で ドロンと参る (ドローンきたる)
さあさあ、お立ち会い!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。本日我が工房からお届けするのは、春うららかな加古川を舞台に繰り広げられた、爺の「大空への大冒険」でございます。
いやはや、本当に驚いた。時は二〇二五年、四月。どこを見渡しても菜の花が黄色い絨毯のように一面に広がり、どこか甘い春の香りが鼻腔をくすぐる我が街・加古川の河原。そんなのどかな景色の真ん中で、ワシはついに、お空を自由自在にスイスイと飛び回る空飛ぶ魔法の道具、「ドローン」というやつを手に入れたんじゃ。
思えば、ワシら昭和の時代を泥まみれになって生きてきた男にとって、お空を飛ぶという行為は、いくつになっても胸の奥底で燻り続ける永遠のロマンなんよ。子供の頃、テレビに齧り付いて見ていた「仮面の忍者 赤影」が、大きな白い大凧にひらりと乗って、悠々と大空を現れる姿に、どれほど胸を熱くし、憧れたことか。「ワシもあんな風に、鳥の目になって世界を見下ろしてみたいなぁ」なんて叶わぬ夢を、駄菓子屋の店先で買うてきた、あの目玉の描かれた「ゲイラカイト」の凧に託し、糸をちぎれるほど握りしめて野原を駆け回ることで、必死に紛らわしとったのがあの頃の少年時代じゃ。それから長い年月が流れ、現役を退いてサラリーマンの退職という大きな節目を迎えたのを境に、胸の奥で眠っとったあの懐かしい夢が、マグマのようにむくむくと首をもたげてきてのう。ついに夢を実現させたくなったんじゃな。
しかしじゃ、いざ最新の機械を買ったはいいが、大空へ飛び立つ前には、世にも恐ろしい最初の関所が待ち受けておった。それが「国土交通省への機体登録」という、お国へのお届け出じゃ。
これがまた、役所への公的な手続きゆえに、一文字の書き間違いも許されんというお堅い世界。老眼の目をこすりながら、画面に出てくるややこしい説明書を一言一句間違えんように虫眼鏡で読み込み、慣れんパソコンのキーボードを相手に一進一退の大格闘よ。住所やら機体の番号やらをチマチマと打ち込み、ようやく登録の完了通知を画面で拝んだ時には、ドローンを大空へ飛ばす前に、ワシ自身の頭の回路がボーーーッと煙を上げてオーバーヒートしてしもうたわ。いやはや、役所の書類仕事というのは、いつの時代も年寄り泣かせやね。
明けて翌日。お天道様が綺麗に昇った絶好のフライト日和じゃ。
愛車の助手席に箱を乗せ、昨日からコンセントに繋いで電気を「満腹(フル充電)」にさせておいた本体とコントローラーを引っ提げて、いざ因縁の初フライトへ出陣!河原の平らな草の上に新じゃが芋のような機械をそっと置き、息を呑んでスイッチを入れた。すると次の瞬間、「ブウゥゥゥゥーーーンッ!!」という、あの小さな体からはおよそ想像もつかんほどの猛烈な羽の風切り音が響き渡り、これにはワシも思わず「うおっ!」と声を上げてびっくり仰天よ。
しかも、すぐに飛ばせるかと思いきや、このお利口さんな機械は「飛ばす前に、右へ左へ、上へ下へと旋回させて、お空の神様に位置を覚えさせなはれ」と要求してきよる。コントローラーを両手に持ち、河原の真ん中でドローンを抱えて右へ回したり左へ傾けたり……あーーー、めんどくさい!「これじゃあ、まるで一人で怪しい踊りを踊っとるみたいやないか」と、額の汗をぬぐいながらボヤきが止まらん。
じゃがのう、そんな苦労の末に、いざ離陸のレバーをグッと押し上げると、そこにはワシのこれまでの人生の常識をひっくり返すような、驚愕の世界が待っとった。
風を切り、ぐんぐんと空高く舞い上がっていったドローンの目。そのお腹にくっついた、もの凄く目の良いカメラが捉えた映像が、手元の小さなスマホ画面へリアルタイムで映し出される。そこには、春の柔らかな光を浴びてキラキラと銀色に輝く加古川の流れと、その遥か眼下、地上の草むらにぽつんと佇んで、豆粒みたいに小さくなったワシ自身の姿が映っとるやないか!
「これや!これこそが、あの時ワシがテレビの中で赤影が見とった、あの本物の景色か……!」
自分の足は間違いなく、どっしりと地面の土を踏みしめとるのに、心だけが肉体を離れて、遥か上空をフワフワと鳥になって飛んどるような、なんとも不思議で浮き足立った感覚じゃ。感動のあまり、手元のレバーを震わせながら、写真も動画もボタン一つでパシャリ、パシャリ。
「おいおい、なんじゃこれ!凄すぎるがな!」
誰もいない菜の花畑の中で、独り言がどうしても止まらんのよ。ええ歳をした白髪交じりの爺が、首が痛くなるほど上空を仰ぎ見ながら、手元の画面を覗き込んでニヤニヤ、ニヤニヤとしとる姿は、土手の上を通りかかる散歩の人から見れば、さぞかし怪しくて気味の悪いものじゃったことだろうよ。が、そんな周りの目なんて、今のワシにはこれっぽっちも耳に入りゃせんわい。
時間にして、たった三十分ばかりの短い空中遊泳じゃったが、かつて土手の上でゲイラカイトのタコ糸を必死に握りしめ、電線に引っかからんかとハラハラしとった少年時代には、逆立ちしたって、逆立ちしたって絶対に見られん世界が、今こうしてワシの手の中にあった。
時折、川面を「ゴォッ」と吹き抜ける春の気まぐれな突風に煽られ、ドローンがズルズルと流されそうになっては、「待て待て!そっちはアカン、戻ってこい!」と、冷や汗をかきながらレバーをあわてて操作するのも、これまたスリリングで人生の素晴らしい一興じゃ。
いやはや、本当にええ時代になったもんじゃのう。あの日の少年が還暦を過ぎて、まさか自分専用の「空飛ぶ目玉」を操る日が来るとはな。よし、次は風の止んだ穏やかな日を狙って、あの新緑の山の方の青葉でも撮りに行こうかのう。今度は慌てんように、ワシの腕前も少しは磨いておかんとな。
焦らず、急がず、明日もボチボチ、新しい景色を探しにいくとしよう。
ここにあるお話(養生草紙)は、すべてワシ個人の体験談やレビューや。お薬や治療の代わりになるもんやないからね。
体の調子がすぐれない時は、無理せんと専門のお医者さんの診断を仰ぐのが一番の養生や。自分の体を一番に大切にしてな。
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