細工物小屋 第六話 ピンポン玉 目玉となって 川を往く (アクションカメラきたる)

さあさあ、お立ち会い!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。本日我が工房からお届けするのは、真夏の加古川を舞台に繰り広げられた、爺と最新ハイテクメカとの、なんともおかしな知恵比べの一幕でございます。

いやはや、本当に驚いた。時は二〇二五年、七月。じりじりと容赦なく太陽が照りつけ、頭上の木々からはアブラゼミやクマゼミが割れんばかりの大合唱を響かせとる我が街・加古川。アスファルトからは陽炎が立ち上り、じっと立っとるだけでも汗が噴き出すような猛暑の中、ワシの汗ばんだ首筋には、いま最新の「魔法の目玉」……いわゆる「アクションカメラ」というやつが、ちょこんと鎮座しとう。

そもそもはのう、最近すっかり熱中しとる川釣りで、自分が一体どんなふうに竿をあおり、どんな格好で魚と格闘しとるのか、その一部始終をこの目で客観的に見てみたくなって、清水の舞台から飛び降りる覚悟で買うたんじゃ。しかし、届いた箱を開けて驚いたのなんの。この令和の文明の利器というやつは、かつてのビデオカメラをここまで小さく、軽くしてしもうたんか。

思えばワシらが若かりし昭和の頃、誰もが喉から手が出るほど憧れた、あの「パスポートサイズ」のビデオカメラどころの騒ぎやない。おいおい、これ、ピンポン玉を四角くしただけやんか。手のひらに乗せても重さをこれっぽっちも感じんから、首にぶら下げとるのをすっかり忘れてしまい、「あれ? どこ置いた?」「お父さん、首にかかっとるがな」と、家族に呆れ顔で突っ込まれる始末じゃ。まったく、自分のマヌケさには愛想が尽きるわい。

しかもこいつは、ただ小さいだけやない。装着の仕方がまさに「七変化」の万能選手なんじゃ。箱の中に金具(マウントパーツ)がこれでもかと入っとって、首にかけたり、帽子につけたり、自転車のハンドルに括り付けたりと自由自在。ワシは悩んだ末に、釣りの手元と水面がワシの目線そのままに映るよう、首から提げるスタイル(チェストマウント)を選んだんじゃ。

さらに腰を抜かしたんは、「四K(よんけー)」とかいう、もの凄く目の良い画質よ。家に帰って大きな画面に繋いでみたら、テレビの液晶で見るより、実物に近いんやないかと思うほど色が鮮やかでくっきりしとう。加古川の泥臭い水面が夏の強い光を浴びてキラキラと黄金色に輝く様子も、川底にへばりつく苔の青々とした緑も、まるでそこにある景色を丸ごと切り取ってきたみたいに見える。大したもんじゃ。

ただし、どれほど優秀な目玉であっても、現代を生きる道具としては使う場所をきっちり選ばんとあかん。今の世の中には「プライバシー」という、昔にはなかった大事な作法やルールがあるからのう。悪気はなくても、街中でカメラを回して他人の顔を勝手に写しちゃあ、お天道様に顔向けできん。だからワシは、この魔法の目玉を、誰の迷惑にもならん静かな川辺や、大自然の懐の中だけで解放することに決めとるんじゃ。これぞ大人の嗜みというやつやな。

さあ、そんな万全の準備を整えて、鼻息荒く出陣した初日のことじゃ。

ターゲットは、淀みに潜む大きな「ナマズ」。お気に入りのルアーを静かに水面へ滑らせる。すると、バシャォンッ!と激しい水飛沫が上がり、竿が満月のようにしなり、リールがジジジッと悲鳴を上げる!「うおっ、きた!デカいぞ!」と色めき立ち、必死に足元の泥にまみれ、息を荒くしながら、見事に一尺五寸はあろうかという大物ナマズを釣り上げたんじゃ。

「よしっ!最高の格闘シーンが撮れたぞ!これで見直したか!」

興奮冷めやらぬまま、意気揚々と我が工房へ引き揚げ、泥のついた長靴を放り出してパソコンに繋ぎ、ワクワクしながら中身を確認したら……。

画面は真っ暗。水を打ったような静寂の闇。何も入っとらん。

……そう、肝心の「スイッチ」が入っとらんかったんじゃ!

このカメラ、撮影を始める前にボタンを「ポチッ」と押して、ピピッという電子音を確認せなアカンかったんや。ナマズに向かって「ようし、引くねえ!負けんぞ!」と一人で熱く語りかけ、必死に泥まみれで格闘しとったワシの勇姿は、世界のどこにも残っとらん。ただ加古川の夏の風に消えただけ。まるで観客のいない舞台で一人芝居を演じていたようなもので、ショックで膝の力が抜け、疲れがドッと出たわい。

便利すぎる現代の道具というやつは、こうして油断した人間に「おい爺さん、しっかりせえよ」と、手厳しい試練を与えよる。科学がどれだけ進歩して新幹線並みの速さで昭和を追い抜いていっても、使う人間が昭和のアナログ人間のままじゃあ、宝の持ち腐れやな。

じゃが、失敗も含めての新しい挑戦じゃ。あのナマズの堂々たる勇姿は、今回はワシの心のメモリーにだけ鮮明に保存して、次は絶対に「ポチッ」と押すのを忘れんようにするわ。

自分の手で苦労して残す思い出も尊いが、こうして新しい技術を相棒にして、加古川の自然を丸ごと記録するのも、これまた乙で贅沢なもんじゃ。よし、次は絶対にスイッチを入れて、あの淀みのリベンジマッチを撮り落としにいくかのう。

焦らず、急がず、明日もボチボチ、新しい形を記録しにいこうかのう。

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ここにあるお話(養生草紙)は、すべてワシ個人の体験談やレビューや。お薬や治療の代わりになるもんやないからね。
体の調子がすぐれない時は、無理せんと専門のお医者さんの診断を仰ぐのが一番の養生や。自分の体を一番に大切にしてな。
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