養生草紙 第四十七巻 造影剤の安酒とMRIの爆音、一変した日常に思うこと

いやはや、参った。本当に参った。今日は朝から夕方まで、文字通り検査、検査の一日じゃったわい。 治療の大きな山を一つふたつと越えて、少しはのんびりできるかと思うたら、病院ちゅうのはそうそう甘い場所やあらへんな。 いつもの定例の血液検査や、見慣れたレントゲン検査だけやのうて、今日はそこに輪をかけて、精密なCT検査やら、あの物々しいMRI検査までてんこ盛りに加算されとったんじゃ。 白い巨塔の迷路のような廊下を、案内紙を片手に持って「次はあっちの窓口へ」「それが終わったら地下一階へ」と、あっちへ行きこっちへ行きと右往左往させられてな。この年になって、病院の館内でまるで若者のスタンプラリーでもさせられとうような、なんとも妙な気分じゃったわい。歩くだけでもフラつく足元を叱りつけながら、検査室の長椅子で名前を呼ばれるのをじっと待つ時間は、それだけで骨が折れる代物じゃった。

体の隅々までしっかりと撮影するちゅうことで、

身体の隅々まで影一つ見逃さずにしっかりと撮影するちゅうことで、途中であの「造影剤」というやつを注射されたんじゃが、これが何とも不思議で、気味の悪い感覚でな。 太い針が腕の血管に突き刺さり、冷たい液体がジワジワと体内に侵入してきたかと思えば、次の瞬間じゃ。まるで魔法にでもかけられたように、身体の芯、胃のあたりから股の付け根にかけてが、内側からカーッと恐ろしいほどの熱さで煮えたぎってくるんじゃよ。 それはまるで、若い頃に安酒場で安物の強いアルコールを一気に煽った時みたいにな、胸の鼓動がドコドコ、バクバクと早うなって、頭がクラクラとし、耳の奥の音が少し遠くなるような感覚じゃった。科学の力ちゅうのは大したもんじゃが、あの身体が乗っ取られるような熱さだけは、何度経験しても慣れん不気味なものじゃな。

その後は、すぐさまあの狭いMRIの筒の中へ

その後は、すぐさまあの狭いMRIの薄暗い筒の中へ、仰向けのままズズズと放り込まれてな。 身動き一つ許されん暗がりのなかで、ヘッドホンから聞こえる「息を止めて……はい、吐き出して」という機械的な指示に必死に従うわけじゃ。 そうして身を硬くしとる15分ばかりの間、頭のすぐ横、耳元で「ガーガーガーガー!」「ドンドンドンドン!」ちゅう、まるで工事現場の真ん中に放り出されたかのような激しい爆音を、ずーっと容赦なく聴かされとったんじゃ。あの狭いカプセルのような空間で、一人きりでけたたましい音の渦に包まれとると、自分が人間なのか、それとも機械の部品にされてしもうたのか、分からんようになってきよる。

あのけたたましい音の渦に包まれながら、

あのけたたましい音の渦に包まれながらな、ワシは振動するベッドの上で、ふと深い思索に耽ってしもうたんじゃ。 ほんの4ヶ月前、自分が健康そのものだと信じて疑わんかったあの頃には、こんな機械の中に横たわる毎日が、自分の「日常」になるなんて、夢にも想像してへんかったなぁ、と。 あの頃は毎日、朝から晩まで仕事のことや日々の雑事に追われて、時間が足りん、足りんとバタバタ忙しなく過ごしとった。それがどうじゃ、まるで狐につままれたかのように、今は病院の白いベッドの上で、ただ淡々と、静かに時間だけが砂時計のようにサラサラと流れ落ちていきよる。 時計の針は同じように進んどるはずなのに、あの忙しかった日常の1時間と、この病室での1時間は、まるで別の世界のもののように重さが違う。 この不思議な、どこか浮世離れした時間の流れから、ワシはいったいいつになったら抜け出せるんやろか。それとも、もう二度とあの賑やかな日常へは抜け出すことができんようになって、このまま白い壁の向こう側に閉じ込められてしまうんかいな……。 爆音の中でじっと目を閉じとると、そんな底暗い、弱気な問いが、頭の中でグルグルと回りよってな。少しばかり胸の奥がキュッと締め付けられるような、心細さに襲われたわい。

ま、狭い筒の中で考えても答えは出んし、

ま、狭い筒の中で考えても答えは出んし、焦ってもしょうがない。 あの暗闇の閉鎖空間でいくら頭を悩ませたところで、病魔が退散してくれるわけでも、未来の地図が手に入るわけでもないからのう。 何はともあれ、今日の一大イベントであった大がかりな検査のフルコースを、この老体が文句も言わずにしっかりと乗り越えてくれた。ただそれだけでも、ワシの身体は大したもんじゃ。よく踏ん張ってくれたと、我が身を褒めてやらねばバチが当たる。

よし、今から、いつものお気に入りの屋上へトボトボと登ってな。 窓から見えた、あのすっかり夏めいた夜の涼しい風に吹かれながら、一人でじっくりと播州の夜空を見上げて考えてみようと思う。 病室の天井は白くて狭いが、屋上の空はどこまでも広うて、ワシらを包み込んでくれるからな。あの満天の星空をぼんやりと眺めとったらな、さっきまでの弱気な霧も晴れて、案外「ま、ボチボチいくか」ちゅう、ワシらしい呑気な気概も戻ってくるかもしれんからな。

皆もな、日々の生活の中で、思いもよらん大嵐に巻き込まれたり、日常が一変して立ち尽くすような夜もあるじゃろう。けれど、焦って答えを出そうとせんでええ。 今夜は難しいことは一回横に置いておいてな、心穏やかに、温もりに守られたええ夢をみなされよ。では、おやすみなさい。

【ワシからのお願い(免責事項)】
ここにあるお話(養生草紙)は、すべてワシ個人の体験談やレビューや。お薬や治療の代わりになるもんやないからね。
体の調子がすぐれない時は、無理せんと専門のお医者さんの診断を仰ぐのが一番の養生や。自分の体を一番に大切にしてな。
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