細工物小屋 第七話 小さな雷 木の葉に文字を 焼き付ける (レーザー彫刻機きたる)

さあさあ、お立ち会い!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。本日我が工房にやってきた、何とも風変わりで恐ろしい、現代の魔法の道具のお話でございます。

いやはや、本当に驚いた。時は二〇二五年、六月。梅雨入り前のしっとりとした、どこか生温かい風が土手から吹き抜ける我が街・加古川。ワシのむさくるしい細工物小屋の戸を叩き、新しく仲間に加わったのは「レーザー彫刻機」という、目に見えぬ光の糸で絵を描く、世にも奇妙な魔法の機械じゃ。

届いた四角い箱を前にして、職人よろしく腕組みをしながら、いそいそと荷造り紐をほどいていく。中からお出ましになったのは、鉄の骨組みに怪しげなレンズの目玉がくっついた、なんとも無機質な金属の塊。昔のワシらの常識で「彫刻」いうたら、それこそ木槌を握りしめ、ノミの刃先を研ぎ澄まし、額に汗して木屑にまみれながらガリガリと削り出すもんじゃ。指にタコを作り、時には刃先を滑らせて血を流しながら、時間をかけて形にするのが当たり前やった。それがどうじゃ、この異国の呪文のような名前の機械は、刃物の一本も持っとらん。ただ一本の細いコードでパソコンと繋がっとるだけや。

さあ、いよいよこいつに命を吹き込む、運命の初陣じゃ。

試しに、そこらの河原で拾ってきた流木の切れ端を台座の上にそっと置き、パソコンの画面から「ポチッ」と合図を送ってみる。すると次の瞬間、「カチッ」と小さな音が響いたかと思うと、ノズルの先っちょからチカチカと青白い光が放たれた。それと同時に、機械が「ジジジジッ、ジジジジッ」と、まるで夜更けのトノサマバッタが羽を擦り合わせとるような、小気味よい音を立てて細かく動き始めたんじゃ。

「おいおい、何が始まっとんや……」

固唾をのんで見守るワシの目の前で、何とも不思議な光景が繰り広げられる。刃物が木に触れとるわけでもないのに、青い光がシュシュッと走った跡が、見る見るうちに炭化して黒く焦げていく。まるで目に見えない透明な一筆書きの絵師が、猛烈な速さで筆を走らせとるようじゃ。それと同時に、細工物小屋のなかに「香ばしい」というか、子供の頃に理科の実験で虫眼鏡を使って紙を焦がしたときのような、あの懐かしい焦げた匂いがツンと鼻を突いた。

ものの数分もしないうちに、さっきまでただの薄汚れた薪同然だった流木の上に、ワシが頭の中で描いた江戸の浮世絵風の厳ついナマズの姿が、一糸乱れぬ緻密さでくっきりと浮かび上がったんじゃ。指先でそっと触れてみれば、レーザーが削り取った部分がほんの少しだけ凹んで、絶妙な立体感を生み出しとう。削りたての木肌からは、生きとるような、ほんのりとした温もりが伝わってくる。これには本当に、腰を抜かすほど驚いたわい。

思えば、ワシらが若かった昭和の頃の「ものづくり」や「表現」いうたら、すべてが不器用で、手間暇のかかる大ごとやった。写真を現像するにも暗室にこもり、文字を印刷するにもガシャコンと重たい活字を拾い、絵を刻むにはそれこそ版画の板を一日中彫刻刀でシコシコと彫ったもんじゃ。あの頃は「自分の思いを形にする」という行為そのものに、男の意地と、気が遠くなるような時間が必要やった。

それが今や、どうじゃ。ピンポン玉の親玉みたいなレーザーの目玉が、ワシの代わりに文句ひとつ言わずに、寸分の狂いもなく光の筆を振るってくれる。科学の進歩というやつは、ワシらが泥まみれ、油まみれで生きてきた昭和の常識を、新幹線並みの猛スピードで追い抜いていきよる。

ただのう、あまりに便利で優秀な相棒じゃが、ちょっとボヤきたくなる戸惑いや、使う人間のマヌケさによる試練もある。

この光の魔法、とにかくお利口さんではあるんじゃが、設定の一つを間違えると途端にヘソを曲げる。ネットの海を調べてみたら、木の種類や硬さ、はたまたアルミの板なんかによって、レーザーの「強さ」や「動かす速さ」を、それこそ毛髪の太さほどの細かさで調整せなアカンらしい。老眼のワシには、パソコンの中の英語みたいな設定文字を読み解くだけで、頭がウニのようになってまう。

鼻息荒く挑戦した二日目、アルミの板に自慢の屋号を刻もうとしたんじゃが、調整をケチって「ええい、力任せにいけ!」とスイッチを押したら、光が強すぎてただの真っ黒焦げの板にしてしもうた。「これじゃあ炭焼き職人の失敗作やないか」と、説明書を後から虫眼鏡で読み直して頭を抱えたわい。便利すぎる道具は、油断した人間に「しっかり勉強せえよ」と手厳しい試練を与えよる。

それでも、失敗も含めて新しい挑戦というやつは、どうしてこうも男の胸をワクワクさせるんじゃろうな。

自分の手で泥臭く刃物を振るう苦労もそりゃあ尊いが、こうして新しい令和の技術を相棒にして、我が工房から世界に一つだけの細工物を生み出すのも、これまた乙で贅沢なもんじゃ。かつてノートの端っこに未来のロボットを描いていた少年が、今や還暦を過ぎて白髪を交え、光の魔法を操っとるんじゃから、人生というやつは本当に何が起こるか分からんし、面白い。

よし、次は設定をバッチリ自動調整して、あの加古川の淀みに潜む大物ナマズをあしらった、特製の釣り道具入れでもこさえてみるかのう。機械は完璧に光を放ってくれても、どんな図案を描くかはワシの腕とセンス次第。こればかりは、どんなに賢いレーザー彫刻機でも自動で粋な絵は描いてくれんからのう。最後の最後は、男の手仕事の勝負や。

焦らず、急がず、明日もボチボチ、新しい光を刻みにいくとしよう。

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ここにあるお話(養生草紙)は、すべてワシ個人の体験談やレビューや。お薬や治療の代わりになるもんやないからね。
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