養生草紙 第九巻 覚悟の坊主頭、鏡の中の「よし大丈夫」
いやはや、いよいよ入院を明後日に控えてな。今日は意を決して、近所の床屋へ行ってきたんじゃ。 目的はただ一つ、頭を丸めること。 これから始まる抗がん剤治療で、髪が抜け落ちるということは聞いとった。パラパラと髪を失っていく […]
養生草紙 第八巻:情けは人のためならず、涙の辞職願
いやはや、人生の崖っぷちに立たされた時、人の温かさがこれほどまでに身に染みるとは思わなんだ。 医師から「余命二年」という無慈悲な宣告を受けた翌日のことじゃ。ワシは重い足取りで会社へ向かい、上司にすべてを打ち明けた。「いつ […]
養生草紙 第七巻:病院のベンチ、涙の許し
いやはや、診察室の空気というのは、どうしてあんなに冷たく、重たいもんなんじゃろうな。 ワシがひと通り宣告を受けた後、身内も診察室に呼ばれてな。医師から淡々と、一言一句違わぬ「審判」が再び下されたんじゃ。隣で話を聞いとる身 […]
養生草紙 第六巻:余命二年の審判、凍てつく身体
いやはや、人生には、言葉というものが全くの「無力」に変わる瞬間があるもんじゃな。 医師の前に座り、淡々と告げられる言葉をただ聞き流す。 「肺せん癌」「3期B」「リンパに転移」「手術不能」。……まるでどこか遠い国のニュー […]
養生草紙 第五巻:九時間の静寂、父の背中と重なる夜
いやはや、人生には時折、しんと静まり返って、自分の心臓の音だけが大きく聞こえるような夜があるもんじゃな。 一通りの検査を終えて、いよいよ明日は医師からの「審判」が下るという、その前夜。 正直なところ、検査を受けている最 […]
太公望の戯れ 第五話 川は、答えを急がせんかった
釣り場のことを調べ続けとるうちに、ひとつ、当たり前やけど見落としとった事実に行き当たった。 家の近くに、一級河川が流れとる、ということじゃ。しかもな、年会費を払えば、決められたルールの中で釣りができるらしい。 池や野池み […]
太公望の戯れ 第四話 変わってしもうたもん、変わらん気持ち
翌日、 昨日のバックラッシュだらけの一日を思い返しながら、ふらりと釣具屋へ向かった。 釣り場へ行く前に、ちょっと様子でも知っとこう。そんな、軽い気持ちじゃった。 店に入ると、ロッドやリールがきっちり並び、相変わらず圧倒さ […]
太公望の戯れ 第三話 何も釣れんかったが、確かに何かを手にしとった
その日は、バックラッシュ続きじゃった。投げるたびに、ラインは言うことを聞かず、リールのまわりで意地悪く絡みつく。 ほどいては巻き、巻いてはまた絡む。気がつけば、投げとる時間より、糸とにらめっこしとる時間のほうが長かった。 […]
太公望の戯れ 第二話 釣りは、黙って待っとってくれた
大学へ行き、そのうち社会へ放り出され、気がついたら釣りは、生活の真ん中からずいぶん遠いところへ行ってしもうとった。 嫌いになったわけでもない。やめようと決めた覚えもない。ただ、時間がなかった。ほんに、それだけの話じゃ。 […]
太公望の戯れ 第一話 出会い
あの頃の話をするとじゃな、どうも話が長うなる。まあ勘弁してもらおうか。 あの頃、ブラックバスは世界そのものじゃった。釣りに本気でのめり込んだのは、14から17才にかけて。 相手は決まってブラックバス。今にして思えば、人生 […]

