養生草紙 第十一巻:青い器と静まり返った城、予期せぬ入院生活

いやはや、ついに「その日」が来てしもうた。  朝の九時に病院へ滑り込み、入院の手続きを済ませ、病室に荷物を放り込む。それから看護師さんの説明やら血液検査、レントゲンとはしごをしとったら、あっという間に正午じゃ 。病院の午前中というのは、どうしてこうも気ぜわしいんじゃろうな。

 さて、入院して最初のご膳。  病室のベッドでもええと言われたが、少しでも動いとかんと気が滅入る思うて食堂へ行ったんじゃ 。ところが、そこで出てきた昼飯を見て、思わず「うわっ」と声が出そうになったわい。食事が盛られとる容器がな、なんとも味気ないブルーのプラスチック製やったんじゃ 。いや、清潔なんやろうけどな、あの青色というのはどうも食欲が減退してかなわん 

 実はワシ、以前に網膜剥離で入院したことがあったんじゃが、今回の入院はそれとはまるで印象が違う 。  網膜剥離の時は「時間が経てば治る」という出口が見えとった。けれど今は、治るか治らんか、先のことなんて誰にも分からん。その差が、病院の空気そのものを重とうしとるんやろうな。

 食堂や廊下を歩けば、至る所から啜り泣く声が聞こえてくるし、中には自暴自棄になっておる人もおる 。  驚いたのは、病室に入っても自己紹介のひとつもありゃせんことじゃ 。皆、わざと喋らんようにしとる気がしてな。他人の人生に深入りする余裕がないのか、あるいは自分のことで精一杯なのか…… 

昨夜の焼肉の賑やかさが、もう遠い昔のことのようじゃ。  四十八のワシが、この静まり返った「城」でこれから戦うんやなと、改めて兜の緒を締め直す心地がしたわ。

ま、初日から飛ばしすぎてもしゃあない。  まずはこの青い器の食事に慣れるところから、ボチボチ始めるとするか。

皆も、当たり前のように誰かと喋れる日常を、大事に守ってな。

拙い話にお付き合いくださり、感謝の極みじゃ。
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